2023年9月3日 5時00分

私はいま、どんな色？

　みなさん、自分を色で例えるならば、何色（なにいろ）ですか――。宮崎県にある都城さくら（みやこのじょう　桜）聴覚支援学校の穴見愛椛（あなみ　あいか）さん（１７）は静かにそう、手話（しゅわ）で語り始めた。先週末、東京・有楽町（ゆうらくちょう）であった「全国高校生の手話によるスピーチコンテスト」でのことだ▼小学生のころ、彼女が付き合うのは、聾学校（ろうがっこう）の友だちばかりだった。手話を、学外（学外）の人に見られるのは「恥ずかしい」と思った。色で言えば「漆黒（しっこく）の時代でした」。悲しい表情が手の動きに重なった▼気づきは中学生のときだった。耳の聞こえない、他県の仲間が臆せずに人前で手話を使うのを見た。「かっこよくて、鳥肌（とりはだ）が立ちました」。若者の世界はどんどん広がっていく▼高校生になると、大好きな絵を通じて、耳が聞こえる人たちと、音を文字化するスマホ機能で会話する機会もできた。「いまの私の色はグレーです」。いろんな色が混ざった灰色です。将来、その一つ一つを際立たせ（ぎわ立たせ）、虹色（にじいろ）の自分になりたいんです。彼女はそう笑顔で語った▼瑞々（みずみず）しい感性にあふれた、素敵なスピーチだった。ただ、入賞は逃した。きっと彼女はがっかりしているだろう。気になって、学校の先生にメールを出すと、丁寧な返信をいただいた▼発表は楽しくでき、ほかの参加者との交流もできました。「一生思い出に残る宝物です」。そんな穴見さん本人の言葉とともに、彼女の描いた絵が添付されていた。海のような深い青や朝顔のような淡い赤。その絵は何とも繊細（せんさい）で、やさしい色をしていた。