2023年9月17日 5時00分

憲法５３条訴訟

　国会が任務を果たすには、絶えず開かれているべきだ。そんな声が、憲法原案を審議していた１９４６年の帝国議会であがった。通年国会（つうねんこっかい）を原則に、との求めである。これに金森徳次郎（かなもり　とくじろう）担当大臣が答えた▼理想はその通り。ただ現実には国会対応で行政が滞る（とどこおる）、と。だから「万年議会制度をとらなかった埋め合わせ（compensation）として、議員の四分の一以上の要求があれば（国会を）開かねばならぬということになっております」。少数派にも意見を述べる機会を、という憲法５３条の趣旨である▼今からみれば、議事録のやりとりはじつに清々（すがすが）しい。国民主権の理念を育てようという思いが双方にある。隔世（かくせい）の感と言わざるを得まい。ここ数年、野党から臨時国会の要求があっても、内閣は店晒し（たなざらし）にしてきた。憲法を守る精神があまりに欠けている▼そんな一喝を期待したのが愚かだったのか。５３条をめぐる訴訟（そしょう）で、最高裁は憲法判断をせぬまま野党議員らの訴えを退けた。せめてもの救いは、宇賀克也（うが　かつや）判事の反対意見だ。特段の事情がない限り「（内閣の）かかる対応は違法である」。投じた一石の波が政府に伝わることを願う▼じつは帝国議会では、もし内閣が要求に応じなかったら、との問いもあった。金森氏は「この中に動く人々は、政治道徳の模範（もはん）ともなるべき人々であろうと思います」。心配には及ばないと▼本当に模範となりうる人々か。司法に期待できるものが少ないとすれば、目をこらすのは、主権者たる私たちの役割である。

日本国憲法第五十三条は「内閣は、国会の臨時会の召集（しょうしゅう）を決定することができる。 いづれかの議院の総議員の四分の一以上の要求があれば、内閣は、その召集を決定しなければならない。」 と定めている。