池上彰のそこからですか!?　第602回　2024/02/02

米大統領予備選挙の仕組みとは

Q　どうもよくわからないことがあるんすが。

A　なんだ、またお前か。今度はなんだい。

Q　アメリカの大統領選挙で、トランプ前大統領が勝ったとかいうニュースがあるんすが、もう選挙は始まってるんすか。

A　ああ、予備選挙のことだな。アメリカの大統領選挙の本番は、今年の11月5日。まだまだ先だ。いまは共和党と民主党が、それぞれ大統領候補を選ぶプロセスが始まったところなんだ。

Q　だって、民主党はバイデン大統領が現職なんだから、決まりでしょ。

A　いやいや、日本の選挙は現職優先なところがあるけれど、アメリカは違う。たとえ現職がいても、党内で予備選挙をして候補者を選定するんだ。事実、民主党はバイデン大統領以外にも候補者に名乗りを上げている人がいて、誰にするかの選考が、これから始まるんだ。

Q　じゃあ、アイオワ州やニューハンプシャー州でトランプが勝ったというのは、どういうことっすか。

A　これは共和党の予備選挙でのことだ。政党の候補者選びは、党員集会をアイオワ州で、予備選挙をニューハンプシャー州で最初に実施するとそれぞれの州が決めているんだ。ただし、民主党は、今回、この2つの州は見送って、この後のサウスカロライナ州から始めることにしている。

Q　どうしてアイオワ州とニューハンプシャー州はパスしたんすか。

A　実は前回4年前の予備選挙では、バイデンがアイオワでもニューハンプシャーでも1位になれず、4戦目のサウスカロライナでやっと1位になり、そこから弾みがついて民主党の大統領候補になれた。そんな過去があるもんだから、今回は2つの州をパスした。この2つの州は後回しで実施するそうだ。

Q　大統領ともあろう者が弱気ですねえ。でも、アイオワの党員集会とニューハンプシャーの予備選挙って、どう違うんすか。

A　党員集会は、文字通り党員たちが集まって、誰を候補者にするかを決める。アイオワの場合、地区ごとに教会や学校など1600か所もの場所に、夜の7時に集まって話し合いをするんだ。話し合いをしてから投票。それを州の党委員会が集計する。得票数に応じて、アイオワ州から夏の党大会に出席する各候補の代議員が割り振られ、この代議員が夏の党大会に出席して候補者を決める。ただし、各州で代議員の獲得争いをしていくうちに、過半数を得る候補者が決まるから、その段階で候補者が事実上決まる。

Q　ニューハンプシャーは？

A　こちらは普通の選挙と同じ。各地に投票所が設けられて投票する。でもね、ニューハンプシャーの予備選挙は少し変わっていて、共和党の候補者を選ぶ選挙なのに、共和党員以外でも投票できるんだ。

Q　えー、どういうことっすか。

A　さすがに民主党員は投票できないけれど、支持政党なしの人は投票できる。

Q　投票者の支持政党が、どうしてわかるんすか？

一番乗りは「町おこし」

地域おこし（ちいきおこし、地域興し）とは、地域（地方）が、経済力や人々の意欲を（再び）向上させる、人口を維持する（再び）増やすためなどに行う諸活動のことである。地域活性化、地域振興（しんこう）、地域づくりとも呼ばれる。

A　アメリカの選挙は特殊でね。事前に選挙管理委員会で有権者登録をしないと投票できない。登録するときに支持政党も記載する。この記録は公開され、誰でも見られるようになっている。このとき「支持政党なし」と書いた人は共和党の候補者選びなのに投票できるんだ。

Q　どうしてそんな変な仕組みに？

A　本選挙を睨んだ仕組みなんだ。いくら共和党員の支持が高くても、11月の本選挙では負けてしまうかもしれない。そこで本選挙で無党派層の支持が得られそうな候補を選ぶために、敢えて投票を認めている。

Q　へええ、自分の支持政党がどこか、誰にでも見られるなんて、日本じゃありえないっすね。それにしても、なぜアイオワとニューハンプシャーが最初なんすか？

A　これは、言ってみれば「町おこし」なんだ。たとえば、アイオワ州がどこにあるか、わかるか？

Q　わかるわけないっすよ。

A　そうだよな。それはアメリカ国民も同じなんだ。8年前にアイオワ州の州都デモインに行く飛行機の中でのこと。後ろの座席にアイオワの大学生が乗っていた。それまでニューヨークに遊びに行っていたらしい。こんな話をしていた。

「ニューヨークでどこから来たかって聞かれたから、アイオワだと答えたら、ああポテトの穫れる（とれる）ところね、なんて言いやがった。ポテトが穫れるのはアイダホだ」

Q　へええ、面白い。

A　ちなみにアイオワでもポテトは穫れるけど、メインはコーン（トウモロコシ）だ。

Q　そうか、4年に一度だけど、大統領の候補者選びを全米で最初にやれば、みんなに知ってもらえるってわけか。

A　察しがいいな。でも、それだけではない。候補者たちは、アイオワの党員集会で1位になりたいから、前年からたびたびやって来て、自分が大統領になったら、アイオワのために頑張りますと約束する。

　また、党員集会が近づくと、全米から多数の支持者とメディア関係者が集まってくる。

Q　ホテルはいっぱいでホクホクだ。

A　その通り。我々が行っても、ホテルというホテルが満杯。モーテルに泊まって取材をする。ただし、モーテルといっても、日本のようなものじゃない。文字通り自動車で行って泊まれるから「モーターホテル」、略してモーテルだ。

Q　大勢が町のレストランで食事をするから選挙特需（とくじゅ）だ。

A　さらに各陣営はテレビコマーシャルをガンガン流す。朝から晩まで候補者のCMばかり。地元テレビ局の広告収入は大変なものになる。

Q　そうか、だから4年に一度のお祭りなんだ。日本も真似すればいいけど、そうもいかないだろうなあ。

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