2025年1月5日 5時00分

美しい言葉とは

 もうすぐ米大統領に就任するトランプ氏は、数カ月前にこう言った。「辞書の中で最も美しい言葉は『関税』だ。愛よりも美しい。何よりも美しい」。愛より美しい関税(タリフ)とはいかなる言葉か。語源は諸説あるが、もとはアラビア語で「通知」などを意味したようだ▼それが地中海貿易(ちちゅうかいぼうえき)などで中東やアジアへ広がった。欧州では中世のイタリア商人が価格一覧(いちらん)を「タリッファ」として示し、16世紀ごろに英語圏へ伝わったとみられる。活発で広範(こうはん)な貿易から生まれた言葉が、いまや内向き(うちむき)な「米国第一」を象徴しているとは皮肉だ▼高い関税で税収を増やし、外国企業に米国内での生産を促す。有利な取引のために関税で脅すことも。トランプ氏の手法は、国際経済のルール作りを進めた戦後の流れと逆行(ぎゃくこう)している。自由貿易を推進し、関税を下げる努力を続けてきたのに▼世界経済の行方(ゆくえ)を案じていたら、バイデン大統領の発表があった。日本製鉄によるUSスチールの買収計画への禁止命令である。「米国の国家安全保障を損なう恐れのある措置を講じる可能性がある」からだという▼これが同盟国の企業に対する判断かと驚いたが、具体的な説明はない。現地の工場閉鎖や解雇(かいこ)のリスク面でも、外国企業の投資促進のためにも、利がないように思えてならない。結局、国内向けの政治的アピールではないか▼世界経済には保護主義がちらつき、見通しは不透明だ。かくして2025年となり、「タリフマン」が戻ってくる。