2025年1月19日 5時00分
Y字路はなぜ生まれるのか
道がある。歩く人がいる。行く手が斜めに右と左に分かれ、どちらかに進む。そんな場所を私たちはY字路と呼ぶ。地理学を専修する京都大の大学院生、重永瞬(しゅん)さん(28)は、吉田キャンパスの近くを歩きながら気づいた。「この辺、なんか多いな」▼それがきっかけだったという。著書『Y字路はなぜ生まれるのか?』を昨年、出版した。歴史を調べ、専門の知識を使い、Y字路の魅力をたっぷり語る本である。筆者お気に入りの道の写真も面白い▼博士課程の研究者いわく、地表は「ままならぬもの」。だから、直線の道の「綻(ほころ)び」としてY字路が現れる。あるいは、古い街並みが新たな都市計画で上書きされるとき、規格外の分かれ道は生じる。京大周辺に多いのも、そこが直線ばかりの古都に接した地域だからだという▼合理性の対極にある人間らしい道といったら言い過ぎか。Y字路とは「さまざまな矛盾や軋轢(あつれき)を受け止める空間」であり、「直角ではいられなかった物語」なのだとか▼10代のころから、まち歩きが大好きだった、と重永さん。「良いY字路には猫がいる」。そんな不思議な記述も著書にある。どうしてそう思うのですか。「猫がいる道は歩いていて楽しいですから。きっと歩行者にも適しているのでは」▼京大そばのお薦めの場所を教えてもらい、私も歩いてみた。なるほど、確かに多い。意識してみれば、グネグネとした細い分岐が随所にあるのに気づく。あっ、猫もいるな。なんだか、愉快になってきた。