2025年1月13日 5時00分

茨木のり子と成人の日

 大人になるとは、どういうことか。詩人の茨木のり子さんは〈すれっからしになることだと/思い込んでいた〉と『汲(く)む』の中で書く。経験を重ねるうちに、本音と建前を使い分けて、世渡り上手になる。そんなイメージだろうか▼1926年生まれ。医師である親の敷いたレールにのって進学するが、ついてゆけない。青春時代は戦争とも重なる。本人の述懐(じゅっかい)によれば「自分自身への絶望と、時代の暗さへの絶望」から、10代で自殺を考えたこともあったという。あんなに凜(りん)とした詩を生んだ心の持ち主にも、苦しい時期があったのだ▼自分は自分のままでいい。不器用な自分のままでいい。そう茨木さんが悟ったのは、舞台「夕鶴」で主演をつとめた山本安英(やまもと やすえ)との親交でだった▼〈そのひとは私の背のびを見すかしたように/なにげない話に言いました/初々しさ(ういういしさ)が大切なの/人に対しても世の中に対しても〉▼大人になったはずなのに、ささいな言葉にも傷つく〈頼りない生牡蠣(なまがき)のような感受性〉。そんな柔らかな心を鋼(こう)にたたき直す必要はない、むしろ長く保つことこそ難しいと説く。自分を鼓舞する言葉であり、未来を生きる若者へのエールだろう。〈どぎまぎしたっていいんだな〉▼きょうは成人の日。雪を踏みしめて式典に向かう人もいるだろう。バイトに励む人もいるかもしれない。だれしも焦らず(あせらず)、自分の道をゆけばいい。胸の奥には、大事にした初心(しょしん)を。「やわらかい」心の中には、いつも「わかい」が隠れている。