2025年4月8日 5時00分
トランプ氏の「関節はずし」
「この世の関節(かんせつ)がはずれてしまった」は、シェークスピアの悲劇『ハムレット』の有名なせりふである(松岡和子(まつおか わこ)訳)。王だった父の亡霊(ぼうれい)にハムレットが会い、その死の真相を知る場面だ。社会を身体にたとえ、「秩序が崩壊した」ことを意味している▼トランプ米大統領が相互関税の詳細を発表した時、このせりふが頭に浮かんだ。これは、世界経済の「関節はずし」ではないか。痛くて元に戻すのが難しい。実際、発表直後から各地で株価が急落し、報復関税の表明も相次いで不穏な空気が漂う(ただよう)▼世界の注目は関税に集まるが、トランプ氏の関節はずしは司法にも及ぶ。かつて自身の疑惑調査や捜査に関わった複数の弁護士事務所に対し、政府機関への出入りを禁じるなどの大統領令を出した。圧力に屈し、政権への協力で「取引(とりひき)」した事務所もある▼連発される大統領令は従来、米司法省の法律顧問局が法的な問題はないかを審査してきた。だが、米報道によると、一部は審査されずに署名されたという。その結果、関係者が「不当な政策だ」と裁判所に差し止め(さしとめ)を求めた案件は170以上にのぼる▼大統領令を阻む(はばむ)連邦裁(れんぽうさい)の判事らにも、トランプ氏は矛先を向ける。不法移民の強制送還で一時差し止めを命じた判事を「過激な左翼だ」と断じ、弾劾(だんがい)すべきだと主張した▼秩序の崩壊を嘆いたハムレットは、同時に覚悟を決めた。「それを正すために生まれてきたのか」。乱れた世を立て直すには、いつの時代も勇気と知恵がいる。