2025年4月10日 5時00分
トランプ氏が好きな映画
何を食べているかでその人物がわかると言ったのは、フランスの美食家(びしょくか)だった。まねをするわけではないが、「どの映画が好きか」を知るのは人物像を理解する上で参考になると思う。ただ、トランプ米大統領の場合は逆にわからなくなった。「市民ケーン」が好きだという▼モノクロ映画の傑作(けっさく)である。監督(かんとく)・主役はオーソン・ウェルズ。米国で1941年に公開された。主人公のケーンは膨大な富を継承し、強烈なカリスマ性と行動力で新聞王にまで上り詰めて豪邸を建てる。確かにトランプ氏と重なる部分はある▼だが、ハッピーエンドではない。ケーンは政界進出を目指すも失敗し、愛した女性は去り、孤独な死を迎えるのだ。なぜ、この寂しい物語にトランプ氏はひかれたのか▼まだ「実業家」の肩書だった23年前のインタビュー映像は特に興味深い。「私は『市民ケーン』から、金持ちになるのが人生のすべてではないと学んだ。ケーンは幸せではなかった。富は人を孤立させる。私にはわかる」▼トランプ氏は昨日、「相互関税」を全面的に発効させた。「米国を再び豊かに」と訴えてきた政治家として、一つの到達点なのかもしれない。だが、政権中枢を忠実な側近ばかりで固め、外の世界から孤立しているようにもみえる▼映画の冒頭に、トランプ氏もお気に入りだという印象的な場面がある。老いたケーンが死の直前、「バラのつぼみ」とつぶやく。孤独や悲しみからの解放を示すこの言葉を、今はどう聞くだろう。
『市民ケーン』(しみんケーン、原題: Citizen Kane)は、1941年のアメリカ合衆国のドラマ映画。オーソン・ウェルズの監督デビュー作。世界映画史上のベストワンとして高く評価されている。ウェルズは監督のほかにプロデュース・主演・共同脚本も務めた。モノクロ、スタンダード・サイズ、119分。RKO配給。