2025年4月13日 5時00分

入学式の言葉から

 人間がどんなに愚かであっても、いかに自分らの都合で自然に手を加えようとも、それでも「春はやっぱり春であった」。ロシアの文豪トルストイは名著『復活』を、そう書き始めている。もの思う春かな。入学式の言葉から▼「受験学という学問はこの先、存在しません」。大阪大の総長は、受験競争を経てきた新入生たちに語りかけた。「きょうからは未知の問いに向き合い、自ら答えを見つけていく学びが始まります」▼自分の頭で考え、判断するとはどういうことか。法政大の総長は言った。冷静に議論をしよう。他者の意見を尊重(そんちょう)しよう。ネット情報を鵜呑み(うのみ)にせず「SNSに投稿する前に一度、立ち止まって考えましょう」▼弘前大の学長は闇バイト問題にも言及した。「甘言(あまげん)の裏には、必ず危険が潜んで(ひそんで)います」。不安を感じたならば相談をと。「一時の誤った選択が、一瞬にして人生を狂わせることがある」▼時代は少子化である。私立短大では学生募集(ぼしゅう)の停止が相次ぐ。鹿児島純心女子短大(じゅんしんじょしたんきだい)の学長は、最後の入学生となることを選んだ114人を「特別な存在」と呼んだ。「熱意がひしひしと感じられ、身の引き締まる思いです」▼時間を表す言葉は、ギリシャ語に二つある。同志社大の学長は説いた。いま大切なのは、機械に刻まれ、管理される時間〈クロノス〉ではなく、自然のなか、ゆっくりと時を満たす感覚〈カイロス〉ではないか。立ち止まる。じっくり待つ。そんな時の流れが、尊く(とうとく)感じられる春である。