2025年4月18日 5時00分
日米関税交渉
「日本の市場は閉鎖的だ」と米国がいらだつ。自動車部品をもっと買わなければ、日本製高級車に100%の関税をかけると息巻く(いきまく)。1995年の日米貿易摩擦(まさつ)である。米国へ飛んだ橋本龍太郎通産相は、交渉相手のミッキー・カンター通商代表から竹刀(しない)をプレゼントされた▼剣道に求められるのは勇気や忍耐だと、カンター氏が日本文化をたたえると、橋本氏はニヤリと「間違いなしに、カンターさんと議論をするのは忍耐力がいることです」。竹刀を構えさせ、剣先(けんさき)をわざと自分の喉(のど)元に導いた。交渉の激しさと覚悟を物語る一幕だった▼剣道ならば、試合は9~11メートル四方の白線の中で行われる。「場外に出るのは禁止」とルールも明確だ。きのう始まった関税交渉がやっかいなのは、どこに白線が引かれているのかさえ、いまだにはっきりしないことにある▼テーブルに載せられるのは自動車か、コメか、鉄鋼か。お門違いの米軍駐留経費まで取引の材料にされそうで、まったく理解に苦しむ▼何しろ相手は、「ルールは俺が決める」と選手と審判を一人でやりたがるトランプ大統領である。今回も、交渉に突然参加した。予期せぬ言動や無理難題に、まだまだ振り回されそうだ▼30年前、橋本氏は冒頭の場面で「世界的なルールの中で、誰が見てもおかしくないような話し合いをしたい」と述べた。どうすれば国益を損なわず、しかも米国の暴走を止めることができるのか。先鋒(せんぽう)である石破政権の竹刀さばきを、世界が見ている。