2023年7月22日 5時00分
シニア世代の再雇用
安治川信繁(あじがわ のぶしげ)は定年後、大阪府警に再雇用された警察官だ。給与(きゅうよ)は定年時(ていねんじ)の6割程度で昇進もない。土日返上で働き(週末も働く)、ときには自腹(じばら)で他県まで捜査に行く。ドラマ化もされた姉小路祐(あねこうじ ゆう)さんの小説『再雇用警察官』の主人公の姿はシニア世代の労働や待遇について考えさせられる▼いまの安治川は、年下の上司にも「再雇用であっても警察官は警察官です」と啖呵(たんか)を切る。以前は出世や昇給に響くから上司に逆らえなかった。柵(しがらみ)から解放されて「人生のゴールデンタイムかもしれへん」と話す彼に、なぜか素直に「良かったね」と言えない▼その疑問が一昨日、解けた気がした。定年後の再雇用者の賃金をめぐる訴訟(そしょう)で、最高裁が判断を示した。正社員との基本給の格差が、不合理に当たる場合があるという。不合理かどうかは、「基本給の様々な性質」を検討すべきだとした▼性質とは能力、業績や成果、勤続年数などの要素(ようそ)を指す。そこには当然、上司の覚えや柵(しがらみ)は含まれない。給与を4割も減らされた安治川が、精神的に自由になって成果を上げたのは、強烈な皮肉である▼定年前より負担の少ない仕事がしたいのか、現役並みに働いてやり甲斐(やりがい)を感じたいのか。再雇用される際の選択で、「給与減」が前提となっているのもおかしな話だ▼安治川はのびのびと働いて推理もさえわたり、複雑な事件を解決へと導く。「現役というのは、ほんまありがたい」という彼に、「給与も現役並みにしてもらいなはれ」と伝えたい。
- たんか 【啖呵】 たんかを切る
- 【威勢のいい言葉を投げつけるように言う】shoot (defiant) words ⦅at⦆speak in a clear, caustic way.