2023年7月8日 5時00分

なし崩しの武器輸出

 「借りた金を、なし崩しにする」。返済の滞り(とどこおり)がちな相手に言われたら、笑うべきか怒るべきか。文化庁による2017年度の「国語に関する世論調査」の解説に驚いた。なし崩しの本来の意味は「少しずつ返していくこと」なのだそうだ▼調査では、6割を超える人が「なかったことにすること」の意味にとらえていた。恥ずかしながら、当方もその一人だ。既成事実を重ねて、はじめの約束をいつのまにかご破算にする。そんな政治のふるまいが多すぎるからだろうか▼自民・公明の作業チームが、武器輸出の新たな指針をめぐる中間報告をまとめた。殺傷能力のある武器は輸出できないという原則を取り止める(とりやめる)。たとえば「機雷処理用」の機関砲や「立ち入り検査を行うため」の銃器の輸出を、今後は認めることで、意見が一致したという▼紛争当事国などに武器を渡して、のちのちの使い方まで縛ることが果たしてできるだろうか。英国やイタリアと開発する戦闘機も輸出できるようにすべきだ、との声が多かったとも聞く。まさしく、なし崩しである▼もともとは武器輸出三原則と呼ばれていたルールだった。14年に防衛装備移転三原則と名前が改められた。歯止めは、少しずつ欠けていくばかりだ▼今回のような報告を何と呼ぼう。思い浮かんだ単語を辞書でひくと、意味は「ふきだして笑うこと」とあった。しかし、文化庁の調査では「腹立たしくて仕方ないこと」とみなす人が半数もいるそうだ。「噴飯(ふんぱん)」もの、である。