2023年7月6日 5時00分

中国の反スパイ法

 日中友好団体(にっちゅうゆうこうだんたい)の幹部だった鈴木英司(ひでじ)さんは、北京でスパイの疑いをかけられた。2016年のことだ。目隠しをされて古い部屋に連行される。監視員2人が常駐して、カーテンを開けて太陽を見ることも許されない。そこに7カ月いた。(『中国拘束(ちゅうがくこうそく)2279日』)▼取り調べで、会食した中国当局者に北朝鮮の動向を尋ねたことが違法だと言われた。日本で報じられた内容を雑談したに過ぎない。それでなぜ。「国営新華社通信(こくえいしんかしゃ)が報じていなければ違法だ」との答えが返ってきた▼不気味な霧はさらに濃くなったというべきだろう。あいまいな規定で、何が違法なのか見えない。改正された「反スパイ法」が中国で施行された。「国家安全や利益に関わる資料」などを探っただけで、スパイとみなされるそうだ▼出張者も「常に監視、盗聴されているという意識をもつことだ」との専門家の忠告を本紙で読み、絶句した。世界2位の経済大国の足もとは、なんたるさまだろう(what the hell is going on)▼企業や研究者が不安から足を遠ざけてしまえば、日中関係はいっそう危うくなる。それでも、監視を優先するのか。摘発の矛先は、外国人とつきあいのある中国人にも向かっているという▼こんなジョークがある。中国共産党の幹部が、国際感覚のすぐれた作家に自伝の執筆(しっぴつ)を頼むことにした。人選が遅い。側近を呼びつけた。「早くしないか」。「しかし、ご希望にかなう作家がどこに収容されているか、懸命に調べているところでして」。笑い事ではない。