2023年7月17日 5時00分
オスプレイの低空飛行
ペリー提督(ていとく)率いる黒船(くろふね)の威容に、すわ戦か(すわいくさか)と武士は慌てた。でも、まともな具足(ぐそく)はもとよりない。冷やかす川柳が残っている。〈武具馬具屋あめりかさまとそっといい〉。にわか繁盛(はんじょう)した商人(しょうにんは、ペリーに感謝した▼開国を迫る米大統領の親書を日本が受け取ったのは、ちょうど170年前の7月だ。これで帰ってくれると幕府は期待したが、ペリーは東京湾のさらに奥へ船団を進めてきた。「来春にもっと多くの船で来る。その停泊地(ていはくち)を探す測量(そくりょう)だ」。開国しないとどうなるか、という脅しだろう▼日米友好を説く一方で、人様の玄関口をうろうろし、抗議は受け付けない。幕府は穏便(おんびん)に済ませようとするばかりで、乗組員が上陸しても、とがめるなと指示していた。構図はいまも変わらない。わが物顔(ものがお)の米国、事勿れ(ことなかれ)の日本▼日米合同委員会が先日、ある合意に至ったという記事を見て、あきれ果てた。米海兵隊のオスプレイは今後、沖縄を除く(のぞく)国内の山岳地帯(さんがくちたい)60メートルで飛べるのだという。自衛隊さえ、そんなことは原則許されない。玄関をあがって奥座敷までのぞいていく。勝手で危うい行為だろう▼日本の法令は、最低安全高度を150メートルとしている。これまでも米軍は低空飛行を繰り返しており、基地のある地域の知事らは「国内法の適用を」と政府に求め続けてきた▼なのに法を守らせるどころか、優遇(ゆうぐう)のお墨付き(すみつき)を与えるとは。いったいどこを向いた政府なのか。「あめりかさま」という答えを聞くのはつらい。