2023年7月18日 5時00分
知りたくない欲望
何の知識もないまま見られてほっとした。宮崎駿(みやざき ハヤオ) 監督の長編映画『君たちはどう生きるか』を封切り初日(ふうきり しょにち)の夜に観賞した。数日前からSNS上のうわさを見ないように気をつけていた。それでも公開直後から作品内容が盛んに流れ始め、ひやひやした▼冷静に考えると、「宣伝しないという宣伝」に乗せられた気がしないでもない。事前に公表されたのは題名とポスター1枚のみ。予告編もCMもない。圧倒的な知名度と実績がなければできない異例の興行(こうぎょう)だ▼情報ゼロ戦略の背景が、先月出版された『スタジオジブリ物語』で触れられている。プロデューサーの鈴木敏夫(すずき としお)さんは、宮崎監督に「もう同じ事はやりたくない」と伝えたそうだ。監督は「わかるよ、鈴木さんの気持ちは」と応じた▼「同じ事」とは大がかりな宣伝だ。企業から資金を集めて仕掛け、映画をヒットさせる。この手法(しゅほう)は1997年の『もののけ姫』で「行き着くところまで行ってしまった」と鈴木さんは感じていたという。出し尽くした末に至った境地だったか▼ジブリ( Ghibli (Studio))作品に限らず、宣伝の波に辟易(へきえき)するようになって久しい。SNS上に流れた情報と合わせ、見ていないのにオチまで知ることすらある。驚きの結末(けつまつ)にぼうぜんとエンドロール(end roll)を眺めた時代がなつかしい▼と言った以上、この映画については語れない。ただ、引退宣言を撤回してまでつくった監督の強い思いを感じた。転勤する先々(さきざき)で見てきた宮崎作品がよみがえり、胸に去来する(きょらいする)ものがあった。
『君たちはどう生きるか』(きみたち-は-どう-いきるか,英: The Boy and the Heron)は、2023年7月14日に公開されたスタジオジブリ制作の日本のアニメーション映画作品。監督は宮﨑駿。
吉野源三郎(よしの げんざぶろう、1899年(明治32年)4月9日 - 1981年(昭和56年)5月23日)の小説『君たちはどう生きるか』からタイトルを取っているが直接の原作とはならず、同小説が主人公にとって大きな意味を持つという形で関わり、物語そのものは冒険活劇ファンタジーとなる。