2023年9月16日 5時00分

阪神の18年ぶりの優勝

 「いいです」とはイエスの意味ですか、ノーですか。「よろしくお願いします」って、どう訳せばいいのでしょう。日本語を学ぶ外国人にとっても、日本人自身にとっても、この国の言葉のあいまいさは魅力であると同時に、悩ましい▼あれ、これ、それ、といった指示詞も、線引きは微妙である。英語にはザット、ジス、イットがあるし、韓国語にはチョゴッ、イゴッ、クゴッといった類似の単語があるが、全く同じには訳せない。ものや人の距離の感覚は、文化によって異なるようだ▼話し手同士がともに理解する、離れた所の何かを指すのが、日本語の「あれ」だろう。チームの誰もが遠くに目指した優勝を、何とも微妙に「そらアレよ」と表現した岡田彰布(あきのぶ)監督の言語センスに脱帽する▼阪神タイガースが18年ぶりにリーグ優勝した。ファンのみなさん、おめでとう。監督はもうこれで「アレは封印」と言ったが、今後も度々、耳にしそうだ▼ドンマイ、ラブラブ、ガッツポーズなどに続いて、みんなが使うカタカナ語としても定着するか。不思議に思う外国人には何と説明しよう。あれがなぜ、阪神の優勝なのか。いえいえ、あれはあれではなく、アレなんです▼おとといの夜、興奮に沸く大阪の街を歩いた。アレ万歳の歓喜のなか、「あれれ、あれ、何だっけ?」と物忘れを嘆く人の声が聞こえ、クスッとひとり笑ってしまった。そうそう、思い出せない大事なものも、あれ、である。うまく訳せないのが、歯がゆいけれど。