2023年9月2日 5時00分

ストもございます

 「三越(みつこし)には、ストもございます」は、1951年に流行した言葉だという。この年の暮れ、百貨店史上初のストライキを三越の労働組合(ろうどうくみあい)が決行した。終戦からまだ6年のデパートに漂う高級感と豊富な品ぞろえ。その裏で緊張する労使関係までうかがえて秀逸(しゅういつ,excellence)だ▼当時の朝日新聞によると、歳末セール中(せーるちゅう)で営業したい会社側に対し、賃上げや解雇問題で対立した労組(ろうくみ)は激しく抵抗した。会社側はアルバイトを雇って(やとって)日本橋(にほんばし)など3店舗を開けたが、労組がピケラインを張って客が入れない▼問屋は「入れないと手形が不渡りになる」と案じ、警察は「ピケを解かなければ実力行使する」と警告した。その周辺を平和運動の僧侶ら(そうりょら)が太鼓(たいこ)をたたいて回る。72年前の記事には「デパートのストらしい風景」とあるが、どうもピンとこない▼思えば70年代のスト全盛期(ぜんせいき)、前日から会社に泊まり込む父親の苦労話を聞いた程度の知識だ。先日、大学生に「ピケラインとは何か」と聞かれて急に年を取った気がしたが、実は日本では見たことがない▼西武(せいぶ)池袋本店がおととい、ストで臨時休業した。大手百貨店では61年ぶりと聞き、時の流れを感じた。ストがこれだけ珍しくなると、その印象も世代(せだい)で異なってくるのではないか。懐かしいと感じるか、なんだこれはと思うか▼ストは憲法で保障された労働者(ろうどうしゃ)の権利である。迷惑をかけるなどと思わず、不当な扱いを受けたら交渉手段として堂々と行使すれば良いのだ。私たちには、ストもございます。