2023年9月10日 5時00分
フランスとラグビー
近代五輪の父クーベルタン男爵(だんしゃく)は、19世紀のフランスでラグビーを普及させた立役者(りっやくしゃ)でもある。大流行した英国の学園小説に魅了され、舞台のラグビー校を20歳のときに訪ねた。五輪より早くラグビーに目を付けていたのは興味深い▼当時のフランスは普仏戦争(ふふつせんそう)で敗北し、自信を失っていた。誇りを取り戻すため、繁栄(はんえい)する英国から学ぼうとクーベルタンは考えた。同校の教育思想に傾倒し、ラグビーを「教育システムのためのスポーツとして熱心に促進(そくしん)した」(トニー・コリンズ『ラグビーの世界史』)▼かつてラグビー校を取材した際、当時の校長が「無視が規律と勇気を生んだ」と楽しそうに話したのを思い出す。その伝説を記した銘板(めいばん)には、生徒の少年が1823年に「ルールを見事に無視し、初めてボールを抱えて走った」とあった。規律を重んじる(おもんじる)競技(きょうぎ)の起源が規則破りだったのかと驚いた▼4年に1度のラグビーW杯が始まった。開催国フランスはいま、絶好調だ。開幕戦を見ようと午前4時に起き、テレビに張り付いた。ニュージーランドを破った瞬間、競技場の歓喜が画面から伝わってきた▼フランスといえば「シャンパンラグビー」が代名詞だった。ボールを持つと味方が泡のようにわいてくる。素早いパスでつなぐ攻撃的な戦い方だ。昨日の試合では、むしろ巧みなキックが目立った▼ラグビーはプロ化の波などに揉まれつつ(もまれつつ)、世界のファンを引きつけてきた。きょうは日本の初戦(しょせん)。また寝不足の日々が始まった。