2023年9月14日 5時00分

岸田政権の内閣改造

 「変面(へんめん)」は、激辛(げきしん)の中華料理(ちゅうかりょうり)で有名な中国四川省の伝統芸能だ。鮮やかに隈取りた(くまどりされた)仮面(かめん)を、役者が瞬時に変えていく。同じ人間なのに、次々と別の顔が現れる様が何とも面白く、庶民に広く愛される技芸(ぎげい)である▼20年ほど前、その名人である彭登懐(ポントンホワイ)さんにお会いした。25秒間(にじゅうごびょうかん)に14もの顔を変えることができる彭さんに、悩み事は何かと尋ねると、秘芸の伝承だと言っていた。いずこの伝統芸能も課題は同じか。50代の名人の自信に満ちた表情が一瞬、陰った(かげった)ことを思い出す▼さて、こちらは13の顔が一挙に代わった。岸田政権の内閣改造である。女性5人の入閣が目玉らしいが、資質を問われた閣僚を留任させるなど、首を傾(かし)げる人事も多い▼そもそもなぜ、いま閣僚を代えねばならないのか。首相の狙いは来秋の自民党総裁選のための布陣固め(ふじんかため)というから、ため息が出る。何と内向きの政治か。目先を変えて支持率を上げようとの思惑もあるらしい。有権者は軽く見られたものである▼世襲政治家の多さも相変わらずで、閣僚の3分の1以上を占めた。政治を家業にしているような人ばかりで国の大事が決まるのでは、危うい限りだ。彼らの目にその祖父や父だけでなく、多様な国民の姿がきちんと見えていることを切に願う▼それもこれも旧態依然、仲間内でしか通用しない政(まつりごと)はいつまで続くのだろう。伝統芸能の秘技伝承でもあるまいし、心配でならない。ちなみに、名人の彭さんは古希を超え、ますます盛んに活動している。