2023年9月26日 5時00分
リビア洪水から2週間
リビアとは、古くはアフリカ北部を広く指す言葉だった。そして一帯は旧約聖書「創世記」の伝説の舞台でもある。愚かな人間によって、世界が悪で満ちてしまったと後悔した神は、恐ろしい決断をする。洪水で地上を一掃しよう、と▼ノアの一家だけには、寸法指定(すんぽうしてい)で箱舟(方舟、はこぶね)をつくらせた。長さは135メートルほど。いまの大型豪華客船の半分くらいだ。「天の窓(てんのまど)が開けて、雨は四十日四十夜、地に降り注いだ」。生き残ったノアの息子3人のうち、1人の子孫が住み着いたとされたのが古代リビアの地である▼かの国を現実に洪水が襲って2週間が過ぎた。がれきと泥に覆われた街の写真は東日本大震災を思わせ、見るのがつらい。世界保健機関によると、死者は4014人、行方不明者は8500人以上にのぼる。だが、いまもなお被害の全体像(ぜんたいぞう)は、はっきりしない。現地の混乱ゆえだろう▼リビアは、国の東西で2人の首相が並び立つ分裂状態が続いている。やるせなさが募るのは、今回の洪水が、それゆえの人災である側面が強くなってきたからだ。豪雨で崩壊した二つのダムは補修が必要だったが、内戦のなかで放置されてきたという▼人間は、やがて起きる悲劇の可能性に目をつぶりながら、目の前の争いをやめられない。どちらにしても、奪われ、踏みにじられるのは命や暮らしだと知っているはずなのに▼旧約聖書の古くから21世紀の現代まで、文明は発展してきた。だが人間の愚かさとは改まらぬものなのか。もどかしい(いらいらさせる、be irritating.⇨じれったい, ⇨いらいら)。
「濁流が通った2、3キロにわたって建物がすべて流された」
北アフリカのリビア東部を襲った洪水で母親と兄が行方不明となっている男性が、現地の状況をこう、語ってくれました。
地元の市長が14日、明らかにした死者の数はおよそ8000人。いったい何が起きたのか。なぜ、ここまで被害が拡大したのでしょうか。
そもそもリビアってどこにある?
北アフリカに位置するリビアは人口680万あまり。エジプトの隣国で、面積は日本のおよそ4.6倍あります。
国土の大半が砂漠で、人口のほとんどが地中海に面した北部に集中しています。
洪水で8000人死亡?何が起きたの?
10日に降り始めた雨が次第に激しくなり、11日に入って東部の各地で洪水が起きました。
中でも大きな被害が出たのが、人口およそ12万の東部の都市デルナです。大雨の影響で上流の2つのダムが相次いで決壊し、大量の水が市街地に流れ込みました。
衛星画像で洪水発生前と後を比較してみると、海沿いにあった道路は寸断されているのがわかります。
別の画像では、洪水前、橋がかかり、周りに多くの建物がありましたが、洪水のあとはほとんどが土砂で覆われてしまっています。
洪水原因は「メディケーン」?
今回リビアで甚大な被害をもたらした洪水について、WMO=世界気象機関は「メディケーン」と呼ばれる、台風のような低気圧によってもたらされた大雨が原因だとしています。
「メディケーン」は、英語で地中海を意味する「メディタレーニアン」と「ハリケーン」を組み合わせた言葉で、今回は「ストーム・ダニエル」と名付けられています。