2023年5月13日

不手際な強盗事件

 伊坂幸太郎さんの小説『陽気なギャング(gang)が地球を回す』に登場する銀行強盗(ごうとう)の4人組は、誰も傷つけずに5分で4千万円を盗む(ぬすむ)。ウソを見抜く名人。精巧な体内時計のタイムキーパー。天才的スリ師。演説上手の雄弁家。特殊能力を綿密(めんみつ)な計画が支える▼多くの作品で強盗(ごうとう)を扱ってきた伊坂さんに、東京・銀座の事件をどう見たか聞いてみたい。まだ明るい夕方(ゆうがた)の犯行も、白い仮面も、警視庁本部近くを通る(とおる)逃走経路も、全部に「ダメ出し」をするのでは▼高級時計店(こうきゅうとけいてん)での強奪中(ごうだつちゅう)、通行人はスマホで撮影し放題だった。「まだ大丈夫。30秒はいける」と粘った(ねばった)犯人らは約2分後、店を飛び出す。大きな車をあちこちぶつけた揚げ句、路地の行き止まりでマンションに逃げ込んだ。ベランダで警察官に説得される姿も動画に残る▼侵入容疑で逮捕されたのは4人。被害品は、すべて警察に回収されたとみられる。つまり、完全な「失敗」だったのだ。全員が10代という年齢から稚拙さ(ちせつさ)も指摘されるが、そう単純ではないだろう▼指示役は別にいるのか。いるならどの程度まで指示し、どこまで現場に任せたのか。あまりの不手際(ふてぎわ、workmanship)に、何か裏があるのではないかと勘ぐりたくなる。隙だらけの「駒」を試し、だめなら捨てる、というような▼冒頭の小説では、4人組が強奪した金を別のグループが奪う展開になる。こちらのリーダーはヤクザ上がりで、高利貸(こうりがし)で共犯者の弱みを握り、平気で使い捨てる。現実はどうか。事件の全容を知りたい。


銀座の白い仮面強盗.png 白い仮面強盗.png 白い仮面強盗-01.png

 東京・銀座の高級腕時計店で起きた強盗事件で、奪われた腕時計が約1億円相当に上る可能性があることが捜査関係者への取材でわかった。事件に関与したとみられる男4人の確保場所の近くで、被害品とみられる腕時計約30点が見つかったが、他にも70点以上が強奪されたとみられ、警視庁が確認を進めている。

 発表によると、男4人は現場からレンタカーで逃走したとみられ、8日夜、約3キロ離れた港区赤坂のマンションに無断で立ち入ったとして邸宅侵入容疑などで現行犯逮捕された。

 4人は、いずれも横浜市に住む無職少年(16)、私立高校3年の男子生徒(18)、職業不詳の男(19)、飲食店アルバイトの男(19)。調べに対し、少年ら3人は侵入容疑を認める一方、高3の男子生徒は「知らない」と否認している。

捜査関係者によると、4人は互いの関係について「知らない人だ」などと話しているが、居住地や年代は近く、警視庁は押収したスマートフォンを解析するなどして関係性や集まった経緯を調べる。

 5人組だったとの情報もあるほか、強盗の指示役がいた可能性があるとみて捜査している。

 事件は8日午後6時15分頃、銀座のロレックス専門販売店「クォーク銀座888店」で発生。白い仮面で顔を隠した3人組が30歳代の男性店員に刃物を突きつけて「伏せろ。殺すぞ」と脅し(おびやかし)、工具(こうぐ)でショーケースをたたき割ってロレックス製の腕時計など100点以上を奪った。

 通行人が同19分に110番したが、警察官が駆けつける前の同25分頃、男らは店の前に止めていたワゴン車に乗って逃走した。警視庁がこの車を追跡し、同30分過ぎに港区赤坂で発見。捜査員が約60メートル先のマンションの通路やベランダで4人を取り押さえた。

 車はレンタカーで、ナンバープレートが付け替えられており、複数の白い仮面が近くに落ちていた。付近の植え込み(thick growth of plants;)から腕時計約30点が入った黒いバッグが見つかった。警視庁は、ほかに残されている物がないかレンタカーの車内を捜索している。


伊坂幸太郎(いさか こうたろう)