2023年5月23日 5時00分
5月の風、解散の風
どこか希望の匂いがするからだろうか。若葉を吹き抜けてくる風には、心が浮き立つ。〈十の椅子丸く並べて風薫る〉山崎千枝子(やまざき ちえこ)。小さな学校の教室で、ちょこんと座った生徒たちを育む(はぐくむ)ように風が吹く。そんな光景が浮かぶ▼さて、初夏の広島サミットでは九つの椅子が丸く並べられた。主要7カ国に欧州連合(EU)を加えた円卓には、訪日が危ぶまれた(あやぶまれた)バイデン米大統領も無事参加した。ウクライナのゼレンスキー大統領も駆けつけ、岸田首相には晴れがましい3日間であったろう▼この「成功」を受けて、首相は衆院を解散するのか。永田町の住人(じゅうにん)の関心は、サミット後の国際社会の行方よりも自らの首の行方へと傾いている。首相は閉幕後の会見で「いま解散総選挙については考えていない」と述べたが、とても文字どおりには受け取れない▼自民党の総裁選は来年秋。その前に解散して選挙に勝ち、求心力を高めるのが常道だ。ならば、サミットの勢いを借りてこの国会期末(こっかいきまつ)で――以前からそよいでいた解散風がやおら強まって、肌に感じられるほどになってきた▼風にまつわる夏の季語では、青葉を揺らすやや強いものを「青嵐(あおあらし)」という。暑い盛り(あついさかり)にぴたりとやむ「風死す(」もある。どちらになるのか、この政界の天気図ばかりは風神様でもご存じなかろう▼防衛費の財源問題など、国会は大事な審議が目白押しである。議員諸氏、薫風に心を浮き立たせたとしても、解散風に右往左往するのはどうか勘弁してもらいたい。
- 風薫るかぜかおる
- 夏の涼しい風がゆるやかに吹くのにいう。薫風。
- 夏の盛り(読み)なつのさかり
- なつ【夏】 の 盛(さか)り
夏の暑さの最も盛んな時期。盛夏
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風死すかぜしす
- 夏の盛りに、まったく風が止むこと。耐えられない暑さを覚える状態をいう語。
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はれ‐がまし・い【晴れがましい】〔形〕[文]はれがま・し(シク)
- ①いかにも晴れの場に立つ様子である。公的にふるまうさまである。夜の寝覚2「君に具し奉りて、―・しからむに」
- ②表立つなどしてはれやかである。はえばえしい。浮世物語「鎌倉は諸国のつきあひ―・しく、人の入り込むこと多ければ」。「―・い席」
- ③あまり表立っておもはゆい。きまりが悪い。
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風神様(かぜかみさま)
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めじろ‐おし【目白押し】
- (メジロが木の枝にとまるとき、押し合うように沢山並んでとまることから)
- ①子供が大勢で押し合い、押されて列外に出た者が、また端に加わって中の者を押す遊戯。
- ②多くの人や物事がぎっしり並んだり続いたりすること。「開発計画が―だ」
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くん‐ぷう【薫風】 くん‐ぷう【薫風】
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①南風。温和な風。かんばしい風。南薫。
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②青葉の香りを吹きおくる初夏の風。青嵐あおあらし。薫る風。〈[季]夏〉。「―の季節」