2023年5月30日 5時00分
さよなら、週刊朝日
出前のラーメンを食べている人がいる。原稿用紙を破って投げつけている人がいる。殴り合いのけんかのそばで、風呂上がりの人が歩いている。きょう発売となる週刊朝日の最終号は、かつての編集部をユーモラスに再現した写真が表紙である▼確かに、つい少し前までは、そんな混沌(こんとん)と粗暴さが私たちの日常だった。創刊から101年。日本で最も古いとされる総合週刊誌が、長い歴史の幕を閉じる。身内びいきに言わせてもらえば、時代の歯車がカチリと鳴る音が聞こえるようだ▼先週末、最終号の校了(こうりょう)の日に編集部を訪ねた。「新聞が伝えきれない、こぼれ落ちた思いや興味を伝えるのが週刊朝日だった」。最後の編集長となった渡部薫(わたなべ かおる)さんは言った。ひとつのメディアが「鼓動(こどう)」をとめる。そのことを「記録だけでなく、人々の記憶にとどめたい」▼編集部では、最後の見出しをめぐる議論をしていた。「さようならのその先」はどうか。休刊は「こん畜生(こんちくしょう)」ではないのか。いや、それより「ありがとう」を入れたい。記者らのやるせない(〖みじめな〗)気持ちがぶつかりあう▼校閲の担当者はピンと背筋を伸ばし、原稿を読み込んでいた。編集者は黙々と点検のペンを走らせている。「本当にやめちゃうの?」。読者から電話がかかってくる。「ずっと読んできたのに」「さびしい」▼最終の頁(ページ)が校了したのは深夜だった。輪転機(りんてんき、a rotary press.)がまわり始めるころ、社を後にした。やり場のない思いを込め、暗い空を見上げる。さよなら、週刊朝日。