2023年5月5日

河童のお産

 芥川龍之介(あくたがわ りゅうのすけ)は小説『河童(かっぱ)』で書いている。いわく「河童のお産ぐらい(おさんぐらい)、おかしいものはありません」。父親は電話をかけるように、母親のおなかの子どもに向かって大きな声で尋ねるという。「お前はこの世界へ生まれてくるかどうか、よく考えた上で返事をしろ」▼芥川らしいユーモアにあふれた話である。「僕は生まれたくはありません」。子どもがおなかからそう答えると、お産はとりやめとなる。河童の国の子どもは生まれるかどうかを自分で決める権利があるのだ▼さて、翻って人間の国で同じことがありえたら、どうだろう。私たちの社会は、母親のおなかの子どもが喜んで「生まれたい」と叫べる(さけべる)ようなところだろうか。しばし腕組み(うでくみ)考える▼日本では7人に1人の子どもが貧困に苦しむ。虐待があり、いじめがあり、若者の高い自殺率がある。「異次元の少子化対策」といっても、経済をよくしたいとの大人の事情が見え隠れするものだ。河童のように選べるならば、誕生をためらう子もいるかもしれない▼「若者はあなたたちの裏切り(うらぎり)を許さない」。地球温暖化をめぐる4年前のグレタ・トゥンベリさんの国連演説を思い出す。「あなたたちが話すのは、お金のことと経済発展が永遠に続くという御伽話(御伽噺,おとぎばなし)ばかり」。16歳だった彼女の怒りは真っすぐに大人たちに向いていた▼きょうは「こどもの日」。私たちはいま、遠い未来の笑顔のためにすべきことをしているだろうか。まぶしき新緑(しんりょく)のなか、自らに問いかける。


トゥーンベリは、2003年1月3日ストックホルム生まれ。著名なオペラ歌手のマレーナ・エルンマンと俳優スヴァンテ・トゥーンベリ(スウェーデン語版) の娘である[5]。彼女の父方の祖父は俳優兼監督のオロフ・トゥーンベリ(英語版)である[6]。

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