2023年5月8日

大きな字になって

 あれ、ここには家があったはずだけれど――。連休中に久しぶりに帰省して、街の顔つきが以前と変わったことに驚いた方もいるだろう。ぽかりと口をあけた空き地や見知らぬアパートが立つ場所に、かつてどんな建物があったのか。見慣れたはずの道なのに思い出せない▼街とは、そうやって生まれ変わっていくものなのかもしれない。新しい光景も、時とともに日常の中に溶けていく。さて小紙も、1~3面などの顔つきが変わって1週間がたった。もうなじんでいただけただろうか▼この欄のまわりは、小さな出店(しゅってん)がいくつも軒を並べて(のきをならべて)いた。古今東西の英知が山積み(やまづみ)された古書店のような「折々(おりおり)のことば」は、少し離れたところで店を構え直した。両隣(りょうどなり)の広告で「いらっしゃい」と呼び声をあげていたお店は、左の1軒のみになった▼当方も屋根が高くなり、間口(まぐち)も広がった。全体の文字数は同じだが、1文字あたりの縦幅がわずかに大きくなり、その分、容積(ようせき)が膨らんだ。リフォームされた紙面をどんな空間にしていこう▼世界的な建築家の伊東豊雄(いとうとよお)さんが『「建築」で日本を変える』で語っている。これからの街づくりで、建築家が果たすべき使命とは「人と人との繋(つな)がりを体感できる場所をつくっていくこと」であり、目に見えないコミュニティーに形を与えることだ、と▼ジャーナリズムにも通じる心であろう。世の中で埋もれている声を伝え(つたえ)、分断された社会をつなぎ直す。新装にあたって、そんな決意を新たにする。