2023年8月5日 5時00分

復活の道、半ばで

 トルストイが小説『復活』を書き上げたのは『戦争と平和』などの大作(だいさく)を記した後、晩年になってからだ。作中の主人公は若き日の過ち(あやまち)を悔い(くい)、新たな人生を歩もうとする。ロシアの文豪はその姿を通じ(つうじ)、「人間の復活とは何か」との深遠な問いを投げかけた▼多くの文学者が指摘するように、小説の結末はやや呆気ない(あっけない、unexpected )。主人公たちはこれから、どうなるのか。これが復活なのか。拍子抜け(ひょうしぬけ)に思う読者もいるだろう。ひょっとすると、復活は永遠に未完成なのだと、老作家(ろうさっか)は言いたかったのかもしれない▼不死鳥を意味するフェニックスが、再び深刻な不祥事に揺れている。日大アメフト部の学生寮から、覚醒剤や大麻(たいま)が見つかったという。選手たちの生活の場(せいかつのば)に警察官が入るという異常事態は、何とも残念である▼危険な悪質タックル(tackle)の問題で、チームが公式戦への出場を止められたのは5年前だった。大学日本一を決める「甲子園ボウル」で度々優勝してきた強豪校(きょうごうこう)にとって、屈辱(くつじょく)だったに違いない▼「問いかける。任せる。見守る。我慢する」。スパルタ式の指導を改めようと、公募で新たに選ばれた監督は立て直し方針を掲げた(かかげる)。2020年には3年ぶりに甲子園ボウル出場を決め、復調(ふくちょう)の兆しとも見られていた▼復活の道半ば(みちなかば)で、いったい何が起きていたのか。フェニックスはこれから、どうなるのか。いくつもの疑問が頭をよぎり、消えない。まずは事件の解明である。悲しく拍子抜けする結末は、誰もが望んでいない。


東京新聞

 日本大のアメリカンフットボール部の部員が違法薬物(やくぶつ)を所持した疑いがあるとして、警視庁薬物銃器対策課は3日、覚醒剤取締法違反(所持)と大麻取締法違反(同)の疑いで、東京都中野区のアメフト部の学生寮を家宅捜索した。部員の男子学生(21)が所持していたとみて入手(にゅうしゅ)ルートを調べる。

  捜査関係者によると、大学側は「寮で大麻を吸っている部員がいる」との情報を得て部員や監督、コーチらを調査。寮の男子学生の関係先から錠剤(じょうざい)や植物片(しょくぶつひら)が見つかり、通報を受けた警視庁が鑑定したところ、覚醒剤や大麻の成分が検出された。

 男子学生は周囲に「錠剤は自分のものだが、使用はしていない」と説明しているという。