2023年8月7日 5時00分

エルマーのぼうけん60年

 りゅうの子どもを助けに行った少年エルマーは、おなかぺこぺこの7匹のトラに囲まれてしまう。ひらめいた。チューインガムを取り出し、こう言ってうまく逃れる(のがれる)。緑色(りょくしょく)になるまでかんで地面にまけば、ガムがはえてきますよ、さあさあ、はやいものがち▼子どもは生来(せいらい)の冒険好き(ぼうけん)だ。米国生まれの児童書『エルマーのぼうけん』に出会えば、それに本好きが加わる。エルマーがリュックに入れた棒つきキャンディーに歯ブラシ、違った色のリボン。寄せ集めの品がどう役立つか。わくわくしてページをめくった、かつての少年少女も少なくないだろう▼幼い頃、兄の部屋にこっそり忍び込んでは、作中の地図に見入った。わが子の本棚にも、以前買った3冊セットがある。ロングセラーの日本語版は、今夏で刊行60年を迎え、累計770万部にのぼるそうだ。なるほど親子でお世話になるわけだ▼訳したのは、絵本『しょうぼうじどうしゃ じぷた』も書いた児童文学者の渡辺茂男(わたなべ しげお)さん。米図書館で働いている時にエルマーにめぐりあった。1冊だけ日本へのお土産に持ち帰ったのが、全ての始まりとなった▼翻訳のにおいがしないように、原稿を音読しては文章を直した、と著書でふり返っている。「それからの子どもの本の仕事に、たいそう役立つ(やくたつ)勉強になりました」▼かけがえのない1冊が、のちの人生をつくる。それは読む側の体験でもある。出会いは、この夏かもしれない。ねえエルマー、どの本をリュックに入れようか。