2023年8月8日 5時00分
30年前の夏
30年前、日本列島は低温と長雨(ながあめ、ながめ)に見舞われて記録的な冷夏(れいか)となった。凶作(きょうさく)と不況が影を落とすなか、政治が大きく動く。総選挙で過半数割れした自民党が結党以来、初めて政権の座から降りた。8党派連立の細川内閣が発足したのは1993年8月9日(ここのか)のことである▼「一つの時代が終わりを告げ(中略)21世紀へ向けた新しい時代が今、幕開き(まくひらき)つつあることを明確に宣言したい」。首相に就任した細川護熙氏の演説を読み、当時の空気を思い出した。世界で東西冷戦が終わり、日本では55年体制が終わった。何かが変わる予感がした▼細川内閣で最も印象が強いのは、衆院選を小選挙区比例代表(ひれいだいひょう)並立制(なみりつせい)に変えた政治改革だ。リクルート事件など「政治とカネ」問題の原因は、一つの選挙区で複数の議員を選ぶ中選挙区制だといわれた。小選挙区にすれば2大政党化が進み、政権交代がしやすくなるとも▼現実はどうか。選挙がらみの買収事件などは後を絶たず、最近も洋上風力発電をめぐり衆院議員と業者の癒着(ゆちゃく)が疑われている。政権も一時的に交代したものの野党はバラバラ、自民1強になって久しい▼民意が多様化する時代に、2極では受け止めきれないとも感じる。小選挙区制の英国でも、環境保護などを求める声を反映したいと変化がみられる。世論調査では45%が比例代表制を支持し、現行制度の28%を上回った▼細川政権は結局、内紛続き(ないふんつずき)で263日しか続かなかった。あの冷夏にほの見えた変化の予感は、幻だったのか。
- 細川護熙(ほそがわ もりひろ)