2023年8月10日 5時00分
サイバー犯罪いまむかし
西暦2000年を迎えた時にコンピューターが誤作動(ごさどう)するのではないかと、懸念された時代があった。「Y2K問題」と呼ばれ、企業などは準備や訓練に追われた。無事に年を越した4カ月後、かつてない規模と速さで広まるコンピューターウイルスに世界が揺れた(ゆれた)▼電子メールの添付(てんぷ)ファイル名は「あなた宛てのラブレター」。開くとパスワードが盗まれ、知人や友達へウイルスがばらまかれた。米国防総省(べいこくぼうそうしょう)や英国議会を含む4500万台を感染させた「アイラブユー・ウイルス」である▼作成したのはフィリピンの専門学校生(せんもんがっこうせい)で、当時は国内に関連法がなく不起訴処分に。動機を聞こうと、半年かけて青年を捜し出した。14歳でパソコンを組み立てた。他のハッカーに披露したくて外へ流した。だまされたのはみんな愛が欲しいから。淡々(たんたん、あわあわ)と話すのに驚いた▼あれから23年。日本とインドネシアの警察当局が一昨日、国際的なフィッシング詐欺事件の共同摘発を発表した。使われたツールは当時17歳のインドネシアの少年がつくったという。プログラミングに没頭(ぼっとう)した幼少期や犯罪意識に欠ける姿が、フィリピンの青年に重なる▼警察庁によると、今年前半のネットバンキング(net banking)の不正送金被害が過去最多(さいた)だという。先月には、データを人質(ひとじち)に身代金(みのしろきん)を要求するサイバー攻撃で、名古屋港(なごやこう)のコンテナ搬出入(はんしゅつにゅう)が停止した▼ネットでつながる世界は突然、脆弱(ぜいじゃく)になり得る。危機に陥った時、若い「天才」が貢献(こうけん)できる社会にできないものか。