2023年8月12日 5時00分

熱波に名前は必要か

 今年の夏も日本に限らず、世界中が酷暑(こくしょ)に喘いでいる(あえいでいる)。水分摂取(すいぶんせっしゅ)や外出自粛を呼びかけても、熱中症(ねっちゅうしょう)などで命を落とす人が後を絶たない。この危険な暑さに対する市民の意識を高めようと、欧米などで熱波(ねっぱ)に名前を付けようという動きがあるそうだ▼すでに命名(めいめい)されたなかでは、各地で40度超えを記録したイタリアの例が目を引く。中世(ちゅうせい)の詩人ダンテの叙事詩(じょじし)『神曲(しんきょく)』地獄篇(じごくへん)から選ばれ、最初の熱波はケルベロスだった。三つの頭を持つ犬に似た怪物(かいぶつ)で血走った(ちばしった)目が暑苦しい。次はカロンといい、冥界にある大きな川の渡守(わたりもり)である▼どちらも名付け親は、地元の大手気象サイトの創設者だ。大の古典好きで、「酷暑で地獄の炎を連想した」のだとか。だが、実はイタリアでは空軍が気象に関する公的な責任者だ。「効果もないのに民間企業が勝手に命名した」と批判している▼世界気象機関は昨秋、熱波の命名に関して考察を出した。気象学や公共政策(こうきょうせいさく)、公衆衛生の専門家らが議論し、関心が高まることや、過去の惨事を思い出しやすいことなどを利点に挙げた▼一方で、台風などと比べると熱波の強さは定義しにくく、年齢や持病の有無(うむ)などで影響が異なるとも指摘された。まずは各国が出す警報・注意報の評価やデータ集めを優先するとして、名前を付けるのは見送られた▼台風を番号で呼ぶ日本からみると、気象現象の名前と聞いてもピンと来ない。調べてみたら、台風6号にはカーヌン、7号にはランという名前が付いていた。