2023年8月15日 5時00分

きょう終戦の日

 あれは小学5年生だったか。担任の栗原(くりはら)先生が一度だけ戦争の話をしてくれた。生まれ育ったサイパンに、9歳のとき米軍が上陸してきた。先生は、家族とジャングルの洞窟(どうくつ)へ逃げ込んだ。飢えと渇きで眠れない。12日目だ。「ミソアリマス、デテコイ」。気がつくと、銃を構えた米兵たちが入り口(いりくち)にいた▼水あります、が片言で訛った(なまった)。のどが渇いているのに味噌(みそ)なんて、とだれも動かない。呼びかけは延々と繰り返された。ついに母が「死ぬ時はみな一緒」と投降(とうこう)を促す。朝から水を探しに出ていた父は、たぶん米軍に撃たれ、永遠に戻らなかった▼子どもは時に残酷だ。「ミソアリマス」は、クラスの男子の流行り言葉(はやりことば)になった。でもおかげで、40年たってもあの授業は忘れない。先の大戦で、玉砕(ぎょくさい)の島サイパンでは、民間人を含む5万人超が命を落とした。戦争はむごい▼戦後78年がたち、戦争体験を語り継ぐことはいよいよ難しい。だが道はある、と信じている。「ズッコケ三人組」シリーズの筆者で、広島で被爆した那須正幹(なす まさもと)さんは「民話」として残そうと提唱していた▼それが笑いや怪談の衣(かいだんのころも)を纏って(まとって)もいい、と。民話は核心を変えずに広く伝わっていく。「自分で語る時、その人は体験者と一体化する。二度と戦争を起こしてはいけないという気持ちになるはずです」▼那須さんは言う。「大切なのは、誰かに聞いた短い話でいいから自分の口で語ることです」。だから、先生から預かった話を皆さんにお渡しする。