2023年8月22日 5時00分
処理水の海洋放出
たっぷりのお湯で、素麺(そうめん)の束(たば)をゆでる。ざるに受け、水で冷やして、ススッとすする。まさに水を食す(おす)が如(ごと)く、涼しげな味わいに舌鼓(したづつみ)を打った。夏の季節に惜しみなく水を使う、この国の食文化は何とも贅沢(ぜいたく)である▼世界を見れば、水を捨てる行為への感覚は異なる。福島第一原発の処理水について、中国政府は「安全ならば、海に流す必要はない」などと、放出(ほうしゅつ)に反対している。安全な水なら、捨てずに使い道があるだろうと言いたいらしい▼水不足に悩む国では通用するかもしれないが、ひどく乱暴な主張である。外交カードにしようとの意図も明白であり、ため息が出る。ただ、近く放出を始めようとしている日本政府の姿勢も、そんなに胸を張れるものには思えない▼いまも、気の遠くなるほどの大量の地下水や雨水が原発内(げんぱつない)に入り込み(はいりこむ)、放射能に汚染(おせん)されている。処理水をこれ以上、ため続けるわけにはいかない。その一点の事情に無理やり押されての放出である▼こんな悲惨な(ひさんな)状況を「アンダーコントロール」と言い切った、かつての首相の気が知れない。原発事故は修復できないほど、豊かな自然を破壊する。廃炉(はいろ)の道筋も一向に立っていない。それでいて、なし崩しに各地で再稼働の話が進むのも理解しがたい▼漁業(ぎょぎょう)にかかわる人たちは、放出への不安を口にしている。政府と東電は「関係者の理解」なしには行わないと言ってきた。話が違うではないか。それもこれも一緒くたにして、水に流されてはたまらない。
- お・す をす 【食す】(動サ四)
- ① 「飲む」「食う」の尊敬語。「醸(か)みし大御酒うまらに聞しもち―・せ」〈古事記•中〉