2023年6月7日 5時00分
孤独(こどく)と孤立(こりつ)
東京・秋葉原(あきはばら)で無差別に17人が殺傷された事件から、あすで15年になる。昨年、死刑を執行された加藤智大(かとう ともひろ)・元死刑囚には歪んだ(ゆがんだ)孤独観があった。判決確定前(かくていまえ)に出した4冊の本に「なぜ」への納得(なっとく)できる答えはない。代わりに、孤立を極端(きょくたん)に恐れる数々の言葉が並ぶ▼たとえば、友人から勧められたゲームセンターで遊ぶのは孤独だが、間接的に友人と接しているので孤立はしていない。勤務先の運送会社の車を運転するのは孤独だが、荷物を待つ人がいるので孤立ではない(『解』)▼「なんかさびしい」と感じる程度なら孤独であり、社会との接点(せってん)がない孤立とは違うという。他の人々が感じる孤独はたいした問題ではないが、自分が抱えた孤立は特別なのだと線引きしているようにもみえる。こんな屈折(くっせつ)した思考に巻き込まれて、多くの命が失われてしまった▼著書で自説を繰り返したが、最高裁判決では「孤独感を深めていた」としか言及されなかった。もっとも4冊目では、事件の真相をだれも理解していないと断言している▼精神科医の高岡健(たかおか けん)さんが、共著『「孤独」から考える秋葉原無差別殺傷事件』で、英語だと同じ孤独でも複数の言葉があると述べている。ロンリネスは否定的だが、ソリテュドには一人でいる能力を発展(はってん)させたニュアンスがあると。後者は孤高(ここう)に近いかもしれない▼孤独に上下(じょうげ)はないが複雑な影と光がある。自由で自立した孤独が欲しいときもあると思う。卑屈にならずに、胸を張ってもいいのだ。
- 加藤智大
秋葉原通り魔事件(あきはばら とおりまじけん)は、2008年(平成20年)6月8日に東京都千代田区外神田(そとかんだ)(秋葉原)で発生した通り魔殺傷事件。
加藤 智大(かとう ともひろ)が2トントラックで赤信号を無視して交差点に突入し、通行人5人を次々とはねた上、降車して通行人や警察官ら17人を次々とダガーナイフで刺した。一連の犯行によって7人が死亡、10人が重軽傷を負った。警視庁や裁判所、報道、更に犯人自身(犯人じしん)からは主に、秋葉原無差別殺傷事件(あきはばら むさべつさっしょうじけん)と呼ばれている。犯人の加藤は2015年(平成27年)に死刑判決が確定し、2022年(令和4年)に東京拘置所(こうちしょ)で死刑を執行された。