2023年6月10日 5時00分
疑わしきは申請者の利益に
イタリア最南端のランペドゥーサ島で20年前、北アフリカから続々と漂着する移民・難民船の問題を取材した。地元の救助当局を訪ねると、一様に同情的だった。みな命がけで海を渡ってくるし、沈没(ちんぼつ)して亡くなる人も多い。だから、助ける際には「難民か、経済移民か」などと尋ねないという▼大きな悩みは難民申請の煩雑さ(はんざつさ)だった。当時のイタリアは移民対策を強化する新法が制定されたばかりで、現場が混乱していた。「貧困や政治的抑圧(よくあつ)など、事情は一人ずつ違う。絶対に違う場合を除き(のぞき)、難民認定して欲しい」と話す幹部もいた▼きのう、日本で改正入管難民法が成立した。さまざまな問題が指摘されるなかでも気になるのは、難民認定が正しく機能しているかどうかだ。申請中でも送還できる制度で、「疑わしきは申請者の利益に」の国際基準を満たせるのか▼難民審査で影響力を持つのは111人の参与員だ。その一人が「2千件を担当し、難民認定すべきだと判断できたのは6件だけ」と述べた。この発言が送還の根拠になる恐れがないか心配だ▼難民認定が6件だけだったのか。それとも、6件しか見つけられなかったのか。命がかかった認定を取りこぼすようなことは許されない▼冒頭の島での取材後、ローマで警察署へ行った。ソマリア出身の難民男性が指紋押捺(おうなつ)をしていた。指先10本を2回、指全体で1回の計30本、左右の手形も。ひどくないですかと聞いたらこう答えた。「命と比べれば大きな問題じゃない」
- ランペドゥーザ島(イタリア語: Isola di Lampedusa)は、地中海のシチリア島南方にあるイタリア領最南端の島。住民は約5500人。ペラージェ諸島最大の面積と人口を有する島であり、その中心である。観光地として知られ、透明度の高い海で名高い(なだかい)。
- 疑わしきは申請者の利益に
- "The benefit of the doubt to the applicant" refers to a principle or concept where, in a situation involving doubt or uncertainty, the person making an application is given the advantage or favorable judgment. It is a presumption of innocence or credibility in favor of the applicant until proven otherwise.