2023年6月13日 5時00分
オスプレイの佐賀配備
佐賀空港は、一面に広がる麦畑(むぎばたけ)の中にぽつりとある。先日訪れると、黄金色(おうごんいろ)に輝く穂( ほ)が風に揺れていた。雲雀(ヒバリ)の囀り(さえずり)の中、収穫の手を休めた麦わら帽子がちらほらと見えた。これが最後だ、とあの人たちは思っていただろうか▼空港の隣の畑をつぶした新駐屯地に、陸上自衛隊のオスプレイなどを配備する。そのための工事がきのう始まった。先週の住民説明会で、九州防衛局は「(着工日(ちゃっこうび)は承知していない」と言っていた。舌の根も乾かぬうちである▼南西方面(なんせいほうめん)の防衛力を高めるなら、新たな負担をお願いする地域には、とりわけ丁寧な説明が欠かせない。なのに防衛省はなぜかいつも、ごまかしをして評判を下げる。不思議でならない▼地元の不安の声に押されて、防衛省は「駐屯地に米軍は常駐しない」とも書面で約束した。これも不思議だ。守れぬ約束を国がしたと速断したくないが、日米政府は共同使用する基地を増やす方針だったはずだ▼「米軍は常駐しない(ただし、長期の駐留を繰り返すことはある)」。書面をあぶると、こんな骨抜き(ほねぬき)の文字が浮かびあがらないか、と心配になる。いや、米軍の運用にも歯止めをかけられる、と言うのなら、沖縄などでどうか実証(じっしょう)していただきたい▼鳥の声は、昔から人の言葉に準えられて(なぞらえられて)きた。「聞きなし」という。麦畑を舞うヒバリは「利取る利取る、日一分(りとるりとる、ひいちぶん)」。借金の取り立てである。守れない約束をすると、いまは良くてもあとが大変――警告の囀り(さえずり)である。