2023年6月29日 5時00分

大谷選手と変化球

 米大リーグに流れる時間は速い。きのう、エンゼルスの大谷翔平(おおたに しょうへい)選手の投球(とうきゅう)をテレビで見て実感した。球種(きゅうしゅ)の主体が、スイーパーから変わってきている。あのWBC決勝の最後に、トラウト選手へ鮮烈な一球を投げたのは3カ月前だった▼スイーパーは大きく横に曲がるスライダーの一種だ。今年から、大リーグの解析システムにも新しい球種として追加された。開幕直後の米メディアは、この話題で持ちきりだった。速球派の印象が強い大谷選手も多用し(たようし)、「打者(だしゃ)を悩ませ、実況アナ(じっきょうあな)を驚かせる」などと報じられた▼注目の変化球ではあるが、素人(しろと)ファンとしては、わざわざスライダーから分けて呼ぶ必要があるのかと思ってしまう。そういえばスプリットも、かつてはフォークボールと呼んでいたような。ツーシームだって、シュートとの違いがわからない▼時代に取り残されたような気分になり、米スポーツライター2人による投手史(とうしゅし)の解説書『ネイヤー/ジェームズ 投手ガイド』(未訳)を開いた。冒頭から、「他人がその投球をどう呼んでも、投手がそう呼んだとは限らない」とあって引き込まれた▼同著(どうちょ)によれば、いまある変化球のほとんどは百年前までに存在したという。時代で名前が変わってきただけなのだ。確かに球速、回転の向き、回転量でしか工夫(くふう)できない。投げられる範囲の曲がり方は出つくしたとの説もあるほどだ▼きのうの大谷選手は直球が中心で、落ちる球がよく決まっていた。ますます目が離せない。

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