2023年6月9日 5時00分

性的少数者の居場所

 〈「あなたはここにいていいよ」。街が全力をあげて私に伝えている気がした〉。芥川賞作家の李琴峰(り ことみ)さんが先月、本紙への寄稿で、7年前にオーストラリアのシドニーで感じた思いを書いていた。世界最大規模のLGBTの祭典、マルディグラ・パレードを初めて訪れたという▼あの年は世界中から1万数千人の性的少数者が参加し、約30万人の観客が沿道で共に祝った。当時シドニー駐在だった筆者も、同じ場所で同じ景色を見た。国籍も性自認も関係なく、だれもが笑顔で互いを受け入れていた▼このままで、ここにいていい。きのうの原告たちはそう思えただろうか。福岡地裁(ちさい)で、同性婚を認めないのは「違憲状態」との判断が示された。全国5地裁のうち4地裁が「違憲」か「違憲状態」と判断したことになる▼あとは法制化への動きが焦点だ。だが国会では、性的少数者に対する理解を広めるための法案で「性自認」の表現でも合意できない。かつては「生産性」を口にした議員すらいた。福岡の原告の一人は「政府の姿勢が社会の空気にひも付いている」と漏らした▼李さんはエッセー集『透明な膜を隔てながら』で、生産性のない恋をしたって何も悪くないと書いた。悪いのは、道徳や生殖や国益などの「独善的な尺度(しゃくど)を押しつけ、それによって人間の価値を断じようとする社会の暴力性だ」と▼ここにいていいとは、社会に居場所があること、人並みの尊厳があることだ。それさえ言えない政治とは、どういうことか。

福岡・熊本の3組同棲カップル.png

シドニーで毎年2月から3月にかけて行われる「シドニー・ゲイ・アンド・レズビアン・マルディグラ(Sydney Gay and Lesbian Mardi Gras)」。元々はカトリック伝統の謝肉祭最終日を意味する「マルディグラ」ですが、オーストラリアではLGBTQIA+(レズビアン、ゲイ、バイセクシュアル、トランスジェンダー、クィア/クエスチョニング、インターセックス、エイセクシュアル etc)の人達の文化や多様性を讃えるプライドをそう称します。