2023年11月3日 5時00分
愚か者はだれか
「経済こそが重要なのだ、愚か者め」。31年前の米大統領選でクリントン陣営が掲げた有名なスローガンである。現職で再選を目指したブッシュ氏は、冷戦終結や湾岸戦争での成果を強調したが大敗(たいはい)した。有権者の心を読んだ戦略は「選挙に勝つには経済」を印象づけた▼古い記憶がよみがえったのは、先月の説で岸田首相が「経済、経済、経済」と繰り返したからだ。直前には自民党幹部らに所得減税の検討を指示していた。そこへ「経済」の連呼と来れば、選挙向けかと思うのは当然だろう▼きのう、政府の総合経済対策が閣議決定された。ばらまき色が強いが、目玉(めだま)は1人4万円の定額減税だ。税収が増えた分を還元するという。納税者としては喜ぶ前に、いくつもの素朴(そぼく)な疑問が浮かぶ▼日本の財政は先進国で最悪の水準だ。還元(かんげん)するより、借金返済に回すべきではないか。急な物価高への対策だったら、来年6月では遅すぎ(おそすぎ)ないか。減税しきれない狭間(はざま)の所得層へはどう対処するか。防衛増税はどこへ行ったか▼高校時代に読んだ経済学の入門書には、税制の3大原則は「公平、中立、簡素」とあった。歳出に対しては財源を確認せよとも習った(ならった)。だが、今回の減税はわかりにくい。財源もよくわからない▼税金については国税庁もホームページで、その法律や使い道は議員が決め、議員を選ぶのは選挙だと説く。減れば支持し、増えたら離れるという単純なものではないのだ。今の有権者をなめてもらっては困る(We cannot afford to underestimate today's voters.)。