2023年11月11日 5時00分

詐欺師に必要なのは

 2人の詐欺師がギャングをわなにかける。競馬中継を利用したイカサマ賭博で大儲け(おおもうけ)できると思わせ、逆に金を巻き上げよう(まきあげよう)というのだ。映画「スティング」は、軽快なテーマ音楽とともに1970年代に人気を博した▼主人公たちは、ギャングを信じ込ませるために、にせの賭博場(とばくじょう)をつくる。出走馬(しゅっそううま)の名前を書く黒板や豪華なシャンデリア、現金窓口の鉄柵などを空き家に運び込んで、見せ金(みせがね)やサクラも準備する▼そんな大がかり(おおがかり)な細工は、こちらの事件では無用だっただろう。何しろ現場は、ソフトバンク本社の会議室だったというから驚く。40階建ての高層ビルの一角だ。部長と課長らが、12億円を男性からだまし取ったとして、先日逮捕された▼会社のロゴ入りの資料などを20人以上に配り、システムの入れ替えに融資してくれる投資家を探している、と切り出したそうだ。「20%の配当が得られる」「決裁権者は私」。その舞台装置(そうち)でそこまで言われては信じても無理はない▼「スティング」のネタ本とされるデイヴィッド・W・モラー著『詐欺師入門』が、一流の詐欺師となるのに必要な資質を挙げている。ゴシップから政治経済まで相手に話題をあわせられること、かといって頭が良すぎるという印象も与えないこと、だれからも好かれること▼加えて、そんな演技を続けられることが必要だという。いやはや映画俳優でもあるまいに。詐欺師にとっての第一歩は、他人よりも、自分自身をだますことなのかもしれない。