2023年11月17日 5時00分

レンコンと獅子頭

 この季節になると、食べたくなる味がある。「獅子頭(シーツートウ)」と呼ばれる中国江蘇省(こうそしょう)の名物料理である。獅子の頭に見立てた(みだてた)大きな肉団子(にくだんご)が、とろりと煮込んだ白菜のスープに入っている。人民宰相と呼ばれた周恩来が、こよなく愛した故郷の味だ▼長年、周に仕えたコックが、引退後に開いたという名店が北京にあった。上品な塩味にひかれ、何度か通ったのを思い出す。食通(しょくつう)の友人によれば、おいしさの秘密は「コリコリとした独特の食感(しょっかん)」という。柔らかな肉の合間に、小さく刻んだレンコンが入っていた▼これが何とも絶妙の歯ごたえで、硬すぎてうるさくもなく、かといって、ゆるすぎでもない。味覚(みかく)だけでなく、口のなかでの触の感を大切にするのが、食にこだわる中国の人々の粋(わく)なのだと教わった▼レンコンは地味だが、さりげない存在感がいい。いくつも空いた穴が未来を見通すとされ、縁起の良い食べ物とも言われる。そういえば、我ら(われら)がフーテンの寅さんも歌っていたな。〈ドブに落ちても根のある奴(やつ)は いつかは蓮(はちす)の花と咲く〉▼きょうは、レンコンの日だそうだ。一大産地である茨城県で、30年ほど前のこの日、全国(ぜんこく)の農家(のうか)が集う(つどう)大会があったことにちなむとか。いまや年中、スーパーに並ぶなじみの食材だが、本来の旬は晩秋から初冬にかけてというから、ちょうどいまごろだ▼〈ぬくき泥つめたき泥と蓮根(はすね)掘〉福田蓼汀(ふくらい りょうてい)。水を抜いた蓮田(はすだ)で泥だらけになっての「蓮根掘る」は、冬の到来を早々に告げる季語である。

こよなく 3 (副)〔形容詞「こよなし」の連用形から〕 他と比べものにならないほど程度がはなはだしいさま。この上なく。比類なく。よい意味に用いる。文語的な言い方。「私が―愛した女性」「―晴れた青空」