2023年11月19日 5時00分
古都(こと)の紅葉(こうよう)
古都の秋を愛でよう(めでよう)と京都へ足を延ばした。向かったのは、紅葉で有名な洛北(らくほく)の圓光寺(えんこうじ)。参観者は、枯山水(かれさんすい)の庭から門をぬけて書院の中へ導かれる。薄暗い室内でひざを折ると、光あふれる「十牛之庭(じゅうぎゅうのにわ)」が絵巻(えかん)のように広がった▼鮮やかな緑。染まり始めた黄(こう)や紅(べに)。この時期に初めて訪れた身としては、感に堪えない美しさであった。そして色彩の競演(きょうえん)を背景に、眺め入る姿が黒々と浮かぶ。陰影の美でもあった▼地元の方によれば、暑さが続いたためか、一帯(いったい)は例年とは少し様子が違うそうだ。「いつもならこの木はもう盛りのはずですが、今年は遅いようで」。染まりきる前に落ちてしまう葉もある、と残念がっていた。ただ、苔(こけ)に散り敷く紅葉にも自然の美しさは宿る▼加えて、平家物語にはこんな話もある。風に飛ばされた紅葉を宮中(きゅうちゅう)の役人がかき集めて、酒を温める火にくべてしまった。風情のわからぬやつめ、と叱られるかと思いきや、高倉天皇(たかくらてんのう)は「林間に酒をあたためて紅葉を焼(た)き」という白居易(はくきょい)の詩を引き、詩情のある者よ、と感心したという▼枝で麗しく(うるわしく)、落ちて惜しまれ、たかれて詩になる。紅葉の魅力は一様でない。古来、人を引き付けてやまないのは、それゆえだろう▼関東から西では、これから見頃(みごろ)となるところが多いそうだ。〈昨日より今日はまされるもみぢ葉の明日の色をば見でや止(や)みなん〉恵慶法師。色が深まっていくことを知りながら、見届けず(みとどけず)に帰らねばならない。思いを同じくして帰路(きろ)についた。
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十牛之庭
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十牛之庭ー枯山水