2023年11月20日 5時00分
紙飛行機の「神様」逝く
いつの時代にも、子どもたちから敬われる(うやまわれる)「神様」がいる。多くの大人は名も知らないが、少年少女(しょうねんしょうじょ)にはキラキラと輝いて見える。二宮康明(にみや やすあき)さんもそんな一人だ。月刊誌『子供の科学』で、ケント紙(し)を切り貼りしてつくる「よく飛ぶ紙飛行機」の連載を49年も続けた▼部品を切り抜き、接着剤が乾くのを辛抱強く待ったら、翼のゆがみを直して試験飛行をくりかえす。「自分で根気よく工夫すること」が大切だと説いていた。科学やものづくりの楽しさに目覚め(めざめ)、人生の扉を開いてもらった子は少なくないだろう▼出来あがった機体は、私の宝物だった。風のない晴れた日。真っ白な翼がスーッと青空(あおぞら)を切り裂いてゆく。やったぞと喜んで、拾いに駆け出す。幼いころの思い出だ▼二宮さんが本格的に紙飛行機とかかわり始めたのは1967年。アメリカで開かれた初の国際大会で、いきなり滞空時間(たいくうじかん)と飛行距離で優勝した。以来、3千機を設計した。独自にデザインした機体の曲線は、雲形定規(くもがたじょうぎ)をつかっても再現できない。「二宮ライン」と呼ばれたという▼享年97。二宮さんが先週亡くなった。その10日前には東京都武蔵野市(むさしのし)の公園であった全日本の大会に顔を見せたばかりだったそうだ▼週末、同じ公園で紙飛行機教室が開かれていた。幼い子が放った機体が、ひゅっと舞い上がる。何にも縛られぬ紙飛行機は自由の象徴である、と二宮さんは書いていた。機影(きえい)を追う。見上げる。神様を連れていった秋の空が、とても高く見えた。