2023年11月22日 5時00分

自然の摂理(せつり)に抗う(あらがう)には

 〈妻のみが話しつづけて退職後第一日の午前は終る(おわる)〉武田弘之(たけだ ひろゆき)。夫にとって第二の人生が始まった日の光景である。もう縛られることはないのに、時間が気になるのは長年の習慣か。妻の立場で言えば、しゃべり続けたのは少し寂しそうな夫への思いやりにもみえる▼きょうは「いい夫婦の日」。11月22日の語呂合わせ(ごろあわせ)だが、絆を確認する機会になるか。同性カップルあり、事実婚の夫婦あり。共働き世帯が専業主婦世帯を上回ってから30年にもなる。パートナーのあり方は多様化している▼企画取材のために30年ほど前、夫婦の満足度に関する様々な海外の論文を読んだ。結婚直後は高かった満足度が徐々に下がり、年を経ると再び上がる「U字型推移」の仮説が注目されていた。だが後の研究で、米国などでは否定されたらしい▼日本ではどうかと、西野理子(にしや りこ)編著『夫婦の関係はどうかわっていくのか』を読んだ。全国調査の分析では、夫婦の満足度は下がる一方だったという。子どもが巣立っても年を重ねても好転しない。「何もしなければ徐々に悪化していくのが自然の摂理」との指摘は衝撃だった▼それでも、打つ手はある。「会話、情緒的(じょうしょてき)サポート、夫の家事」が増えれば、夫婦とも満足度は上昇した。寄り添い、見守る加減が幸せを続ける鍵になる▼〈やさしさもりんご一つの距離おきて形見(かたみ)に暮らす熟年夫婦〉前田靖子(まえだ やすこ)。この絶妙の距離感は、苦楽を共にした日々がもたらしたものか。難しいけれど、まあぼちぼち(Just só-sò. )と。