2023年11月26日 5時00分
ストーンズと老いのかたち
理想の老いとは、何だろう。ロック音楽の代名詞、ローリング・ストーンズが18年ぶりに出した新作のアルバムを聴きながら、そんなことを考えた。しわくちゃ(どが〗wrinkled, crumpled)のミック80歳、白髪キース79歳。ドラムのチャーリー・ワッツは2年前に逝った。結成60年を超える長寿バンドだ▼「老いも衰え(おとろえ)も、変容がとても人間らしくて、魅力的なんですよ」。日本のファンクラブ会長、池田祐司さん(70)はそう語る。半世紀もの間、ストーンズどっぷりの人生を歩んできた強者(つわもの)である▼近年、高齢化したストーンズのライブには変化がみられるという。昔の曲は音が間引きされて(まびきされて)いる。おやっと思う演奏も増えている。でも、それが心地よい。「失敗も面白くなるバンドです」。ファンたちは味わい深く、楽しんでいる▼新作は彼らにしては珍しく、レディー・ガガら著名アーティストが多数参加した。老練な知恵なのだろう。自分で難しくなった音は、変化を恐れず、助っ人(すけっと)と一緒に作ろうというかのようである▼晩年に失明した哲学者サルトルは「他者こそ私の老いである」との名言を残している。老いてなお盛んなのもいいが、衰えを認め、他者の助けを受け入れ、生き延びようとする。その振る舞いの何と人間らしいことか▼新作に続き、北米ツアー(ほくべいつあー)も予定される。ミックらの体を心配しつつ、ヨタヨタになっても頑張れと声援を送りたくなる。池田さんは言う。「ずっと一緒に育ってきたけれど、いまを生きている彼らが、一番好きですね」
「おやっとさぁ」は鹿児島弁で「お疲れさま」「ご苦労さま」という意味です。