2023年12月4日 5時00分

万博の理念と未来

 東京五輪の次は大阪万博だ。そんな報道が出始めた1964年、SF作家の小松左京(こまつ さきょう)は学者ら7人で万博の研究会を発足させた。当時の東京は、五輪関連の投資で「すさまじい工事の混乱ぶり」だった。あれが関西でも繰り返されるのかと、危機感があった▼議論を重ねた研究会は数カ月後、一つの結論に達する。万博は「やりようによっては、きわめて意義のある」ものになり得るだろう――。一部メンバーはその後、基本理念の起草など万博に直接関わる立場になっていく▼70年万博を記録した小松の「大阪万博奮闘記」を読むと、熱量に圧倒される。テーマだった「人類の進歩と調和」を追求し、輸出振興を目論む(もくろむ)当局とぶつかり、たんかを切る。まだ30代で『日本沈没』を書く前の彼は、かなり青臭い▼それでも「万博は手段であり、目的ではない」との主張には、はっとさせられる。目的は「人類全体のよりよい明日を見出(みいだ)すこと、(略)苦しみのすくない世界をつくりあげて行くこと」なのだ▼さて、開幕まで500日を切った大阪・関西万博はどうか。費用は膨らみ続け、海外パビリオンの建設は遅れ、参加を辞退する国も出ている。聞こえてくるのは理念ではなく、弁明や責任逃れの言葉、経済効果の皮算用ばかりだ▼「人類の展望(てんぼう)」を示してきた万博で今回、魅力的な未来を見せられるのか。世界で戦争が続く時代に、希望を語ることはできるのだろうか。開催することが目的になっているような気がしてならない。