2023年12月10日 5時00分

オスプレイの飛行停止

 岸田首相が自民党政調会長だった時である。米軍のCH53ヘリが2017年、沖縄県で不時着・炎上した。選挙の応援で訪れていた岸田氏は、在沖米軍トップらを呼び、事故に抗議しようとした。だが米軍は呼び出しに応じない。なぜ応じないのかも教えない▼直前には外相兼防衛相だった岸田氏のメンツは、丸つぶれになった。日ごろ尻尾をふっていても、いざとなれば取り合ってすらもらえない。米軍基地のある街から見た日本の姿だ。同じことがまた繰り返された▼屋久島沖へのオスプレイ墜落である。木原防衛相は飛行停止という従来の表現をなぜか弱め、「安全が確認されてから飛行」するよう米軍に求めた。顔色うかがいをよそに、米海兵隊は案の定、数日にわたってオスプレイを飛ばし続けた▼同盟国とはいえ、外国の軍隊が要請を無視して飛ぶのを傍観する国がどこにあろう。米軍駐留の海外事情を調べた沖縄県職員は、イタリアで「米国の言うことを聞いているお友達は日本だけだ」と言われたそうだ▼米軍に右へならえ。政府が「不時着水」としていた今回の事故は、一転して「墜落」となり、ついに全オスプレイの飛行停止に至った。いつまで続くのかはまだわからない。ただ17年は事故原因が分からぬまま、米軍の独断で1週間後に飛行が再開された▼政府が主体性を欠いたままなら、似た顛末(てんまつ)になるだろう。朝日川柳が言う。〈墜落と言えぬ家来の国に住む〉。言葉の主権も、空の主権もこの国にはないのか。