2023年12月24日 5時00分

クリスマスの料理教室

 クリスマスイブまで1週間となった先週末、東京都内にある公共施設の調理室に7人の母親が集まった。指導役の坂上(さかうえ)和子さん(69)は、昨春から40回ほど料理教室を開いてきた。この日のレシピはクリスマスケーキだ▼粉をふるい、クリームを塗り、サンタを飾って完成した。甘い香りのなかで試食が始まり、会話が弾む。終了後の感想カードには「息子も喜んでいるでしょう」「今年も何とか過ごせました」などと書かれていた▼母親たちは全員、病気で子どもを亡くした経験を持つ。坂上さんは32年前から、入院中の子どもたちの心を癒やすために一緒に遊ぶボランティアを続けてきた。昨年、息子を失った母親から「グリーフケアの場が欲しい」と相談され、みんなで料理をしてはどうかと思いついた▼悲しすぎて本も読めない。家にいるとつらいのでただ外を歩く――。喪失感と孤独に苦しむ親たちを、坂上さんは長く見てきた。子どもの闘病中は看護師や介護スタッフらが懸命に支えてくれるが亡くなった後のサポートはない▼母親の一人は3年前、小学生の息子を脳腫瘍(しゅよう)で亡くした。街が浮き立つこの時期は特に心が沈む。だが最近、戦禍や貧困にさらされた子どもの報道に目が行くようになった。「気づかずに生きてきたけれど、暗闇のクリスマスもある。今でも息子に教えられています」という▼ここなら泣いても笑ってもいい。悲しみを包み込む小さな救いの場は、ハウスグランマ(おばあちゃんち)と呼ばれている。