2023年12月25日 5時00分

ミサイルを輸出する国

 米国の歴代大統領による就任演説(しゅうにんえんぜつ)での名言は数多(あまた)に上るが、退任演説といえば、1961年のアイゼンハワー氏の言葉が有名だ。米ソ冷戦下の軍拡(ぐんかく)が生んだ(うんだ)軍と産業界の「軍産複合体(ぐんさんふくごうたい)」が、民主主義を脅かすと警告した。いまの時代にも通じる示唆(しさ)に富む演説である▼「この軍事国家的な傾向を、私は十分に統制できなかった」。アイクの愛称で知られた元将軍は告白(こくはく)した。当時の人々はさぞ驚いたことだろう。軍産複合体が「誤って台頭し、破滅的な力をふるう可能性は将来も存在し続けるだろう」▼その危惧(きぐ)が、杞憂(きゆう)に終わったと言い切れる者は誰もいまい。冷戦のさなかも終結後も、世界最強の軍事大国は戦争を繰り返してきた。かつての勢いを失いつつあるいまも、軍事上の負担の肩代わりを、あからさまに同盟国に求めている▼岸田政権が、武器輸出の大幅な緩和を決めた。日本企業が作るミサイルを、米国に輸出できるようにするという。こんな重要な政策の転換を国会での議論も経ず、裏金問題(うらきんもんだい)に揺れる政権がスッと決めてしまう軽さに唖然(あぜん)とする▼ミサイルは、ウクライナ支援などで生じる(しょうじる)米国内の不足分にあてられるらしい。要は、米国の軍事的な都合に左右された話ということか。何とも釈然としない⦅満足していない⦆▼人を殺せる兵器は売らない。日本はそういう国ではないのだ――。世界に向け、誇り高く掲げてきた「平和国家」の看板が、どんどん小さくなっていく。それが私たちを安全にしているとは、どうしても思えない。