2023年12月26日 5時00分
プラネタリウム100年
東経135度の子午線が通る兵庫県の明石市(あけしし)には、日本で最も古い現役のプラネタリウムがある。旧東ドイツ製の投影機で高さ約3メートル。映し出される満天の星が、1960年の稼働開始から多くの人を魅了してきた。毎年この時期は大掃除(だいそうじ)をすると聞き、訪ねてみた▼「この1年、よく働いてくれました。まだまだ使えます」。市立天文科学館の館長、井上毅(いのうえ たけし)さん(54)は笑顔で言った。今年はプラネタリウムが欧州に誕生してから、100年の節目である。古参(こさん)の投影機は注目を集め、大活躍だったそうだ▼脚立(きゃたつ)に登った職員たちが、パタパタとモップを使い、機器のほこりを払う。隙間にたまった塵(ちり)も、丁寧に取り除く(とりのぞく)。黒く光る金属は無言だが、どこか誇らしげで、気持ちよさそうに見えた▼掃除(そうじ)の合間に少しだけ、投影を拝見した。夕刻の空に一番星がのぼり、天上に瞬き(まばたき)が満ちていく。漆黒(しっこく)の闇に浮かぶ光は何とも穏やか(おだやか)で、控え目だ(ひかえめだ)。いまの世の暮らしからは消えつつある暗闇と、ほのかな輝きが心地よい(ここちよい)▼人はなぜ、プラネタリウムにひかれるのだろう。唐突な問いだが、井上さんは真剣に答えてくれた。「ここで美しい星を見ていると、自分が宇宙のなかにいて、宇宙の一部であって、それがいかに奇跡的であるのかを思うからではないでしょうか」▼狼星(シリウス)はまさに爛々(らんらん)たり、と作家の中島敦(なかじま あつし)は漢詩に詠(うた)った。凍夜(とうや)、疎林(そりん)の上、悠々たり世外(せいがい)の天。ときが光のように過ぎ去る年の瀬(せ)に、しばし思いを悠久(ゆうきゅう)の彼方(かなた)へと飛ばす。
プラネタリウム 5、planetarium, 恒星の配置や太陽・月・惑星の運動など,天球面の諸現象を室内のドームに映写機(えいしゃき)で映して,天体の運行を模型的(もけいてき)に見せる装置。天象儀(てんしょうぎ)。
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