2023年12月29日 5時00分
今年逝った人の言葉から
なぜだか妙に、慌ただしい。喧騒(けんそう)の年が足早に去っていく。私たちはどうしてこうも、苛立って(いらだって)いるのか。なんでこう、不安なのか。しばしの沈思黙考(ちんしもっこう)。今年亡くなった人の言葉から、いまという時代を考える▼「僕は、各駅停車の駅にいる人が、豊かでかっこよく見える」。脚本家の山田太一(やまだ たいち)さんは語っていた。効率ばかりを優先する生き方は無理がないか。「いまの社会は、プラスの明るさだけを求めている気がします」▼この先に見えるのは、AIの時代か。人間と機械の関係にこだわった漫画家、松本零士(まつもと れいじ)さんの作品には「ドタン場で必要となるのは、考える力を持った人間様だ」との言葉がある。それでいて、松本さんの描いた機械人はどこか柔らかで、あたたかい。まるで人間とは何かを教えてくれているかのように▼「自分を好きになるって難しい」とryuchell(りゅうちぇる)さんは自著に綴(つづ)った。27歳の人気タレントは悩み続けた。自分らしさとは何か、個性とは何かと。「まずは甘やかすところから始めるのはどうだろう」▼人は殺し合いを、戦争を、やめられない。イスラエル軍のガザ攻撃で7歳のハリドくんは亡くなった。乗馬や水泳が好きな少年だった。英語を学び、「ガザの外の世界を知りたい」と言っていた▼私たちは何を信じればいいのか。福島の原発事故の後、作家の大江健三郎((おおえ けんざぶろう)さんは問いかけた。「私は次の時代の日本人が引っかぶる、物質的な重荷に加えて、不信という重荷を思います」